この趣旨を実現するため、各種の体制整備や支援強化が行われています。
この記事では、改正の具体的な内容について解説していきます。
執筆したのは、障害福祉専門の行政書士です。
改正の概要
今回の法改正では、障害者総合支援法だけでなく、精神保健福祉法、児童福祉法、障害者雇用促進法などの関係各法についても改正されています。
改正の概要は次のとおりです。
- 地域生活の支援体制の充実
- 障害者雇用支援の見直し
- 精神障害者のニーズに応じた支援体制の整備
- 難病患者等に対する医療の充実等
- 各種データベースの充実化
- その他(市町村の意見申出制度の創設、居住地特例の見直し等)
地域生活支援体制の充実
グループホーム制度の見直し
≪現状と課題≫
グループホーム(共同生活援助)の利用者の中には、グループホームでの生活をある種の通過点と考え、一人暮らしやパートナーとの同居を希望していて、生活上の支援があれば実際に一人暮らし等ができる人もいます。
≪見直し内容≫
グループホームの支援内容として、一人暮らし等を希望する利用者に対する支援や退居後の一人暮らし等の定着のための相談等の支援が含まれることを、障害者総合支援法に明確化します。
≪見直し後の支援例≫
①グループホーム入居中
一人暮らし等に向けた調理・掃除等の家事支援、買い物の同行、金銭や服薬の管理支援、住宅確保支援などを行います。
②グループホーム退去後
当該グループホームの事業者が、相談等の支援を一定期間継続します。
地域の相談支援体制の整備
- 相談支援に関する業務を総合的に行う機関として、基幹相談支援センターがあります。
基幹相談支援センターは、身体・知的・精神の3障害全てに対応するワンストップサービスとしての役割を果たす他、困難事例の対応や地域の相談支援事業所に対する助言・指導等を行いますが、令和3年度時点で、設置市町村は半数程度にとどまっています。 - 地域生活支援拠点等は、緊急時の対応や施設等からの地域移行の推進を担う拠点として整備が進められていますが、こちらも約5割の市町村での整備に留まっています。
- 市町村では、精神保健に関する課題が、子育て、介護、困窮者支援等、分野を超えて表面化している状況です。
- 基幹相談支援センターについて、地域の相談支援の中核的機関としての役割・機能の強化を図るとともに、その設置に関する市町村の努力義務等を設けます。
- 地域生活支援拠点等を障害者総合支援法に位置付けるとともに、その整備に関する市町村の努力義務等を設けます。
- 地域の協議会で障害者の個々の事例について情報共有することを障害者総合支援法に明記するとともに、協議会の参加者に対する守秘義務及び関係機関による協議会への情報提供に関する努力義務を設けます。
- 都道府県及び市町村が実施する精神保健に関する相談支援について、精神障害者のほか精神保健に課題を抱える人も対象に含めます。
また、精神保健福祉士の業務として、精神保健に課題を抱える人に対する相談援助を追加します。
障害者雇用支援の見直し
就労アセスメントを活用した支援の制度化等
- 就労系障害福祉サービスの利用において、障害者の就労能力や適性等と、実際の就労先や働き方がマッチしていないケースがあります。
- 就労を希望する障害者のニーズが多様化している中で、障害者が働きやすい社会を実現するために、個々の障害者の希望や能力に応じた支援を提供することが求められています。
- 障害者本人が、就労先や働き方についてより良い選択ができるよう、就労アセスメント(障害者本人の就労ニーズの把握、能力・適性の評価、就労時に配慮すべき事項の整理等)の手法を用いて、その人に合った選択を支援するサービス(就労選択支援)が創設されます(障害者総合支援法)。
- ハローワークは、この支援を受けた人に対し、アセスメントの結果を参考にして、職業指導等を実施します(障害者雇用促進法)。
短時間労働者の雇用率算定範囲の拡大
≪現状と課題≫
現状、障害者雇用促進法で事業主に雇用義務が課せられているのは、週20時間以上の労働者です。
他方で、障害特性により長時間労働が難しく、週20時間未満での雇用を希望する障害者も一定数存在しており(特に精神障害者に多い)、このことが一般就労のハードルの一つとなっています。
こうしたニーズを踏まえ、週20時間未満であれば働くことができる障害者の雇用機会の拡大を図ることが必要とされています。
≪見直し内容≫
労働時間が特に短い(週10時間以上20時間未満)重度知的障害者、重度身体障害者及び精神障害者について、事業主が雇用した場合に、障害者雇用率において0.5人とカウントできるようになります。
これにより、現行の、週20時間未満の障害者を雇用する際に事業主に支給される特例給付金は廃止されます。
- 身体障害者 1人
- 身体障害者(重度)2人
- 知的障害者 1人
- 知的障害者(重度)2人
- 精神障害者 1人
- 身体障害者 0.5人
- 身体障害者(重度) 1人
- 知的障害者 0.5人
- 知的障害者(重度) 1人
- 精神障害者 0.5人(当分の間、1人)
- 身体障害者(重度)0.5人
- 知的障害者(重度)0.5人
- 精神障害者 0.5人
障害者雇用調整金等の見直しと助成措置の強化
≪現状と課題≫
事業主の、障害者雇用に伴う経済的負担を調整するとともに、障害者を雇用する事業主に対して助成を行うため、事業主の共同拠出による納付金制度が整備されています。
この納付金制度においては、事業主の取組の進展により障害者雇用率が上昇した結果、法定の雇用率より多く雇用すると支給される調整金や報奨金が支出のほとんどを占め、雇用の質の向上を支援する助成金の支出が限られています。
- 事業主が一定数を超えて障害者を雇用する場合、当該超過人数分の障害者雇用調整金や報奨金の支給額の単価を引下げる。
- 事業主の取組を支援するため、企業が実施する職場定着等の取組に対する助成金を新設する。
精神障害者のニーズに応じた支援体制の整備
医療保護入院の見直し
≪現状と課題≫
精神障害者に対する医療においては、入院の判断を含め、本人の意思を尊重することが重要です。
しかし、症状の悪化により判断能力そのものが低下するという特性を持つ精神疾患については、たとえ入院が必要な状況であっても、その症状によって自分の状況を認識できず、入院に同意できないケースが少なくありません。
このように、本人の同意が得られない場合でも入院治療へのアクセスを確保するため、精神保健福祉法は、家族等の同意に基づき入院を行う「医療保護入院」を定めています。
≪見直し内容≫
これまで、家族など意思表示をできる人が誰もいない場合に、市町村長の同意による医療保護入院が可能とされていましたが、今回の法改正により、家族等が諸事情により同意・不同意の意思表示を行わない場合にも、医療保護入院が可能となります。
また、必要のない入院が継続されることがないよう、医療保護入院の入院期間を定め、入院中の医療保護入院者について、一定期間ごとに入院の要件の確認を行うなど、患者の権利を守るための制度が強化されることになりました。
「入院者訪問支援事業」の創設
≪現状と課題≫
精神科病院において、外部との面会交流を確保することは、患者の孤独感を防ぐためにも重要です。
しかし、医療保護入院のような自発的ではない入院の場合、家族との音信がない患者であれば、外部との面会交流が特に途絶えやすくなります。
≪見直し内容≫
市町村長の同意による医療保護入院の範囲が拡大されることに伴い、市町村長の同意による医療保護入院患者等を対象として、外部との面会交流の機会を確保し、その権利擁護を図ることが必要となります。
そのため、都道府県知事等が行う研修を修了した「入院者訪問支援員」が、患者本人の希望により、精神科病院を訪問し、本人の話を丁寧に聴くとともに、必要な情報提供等を行う「入院者訪問支援事業」が創設されます(都道府県の任意事業)。
精神科病院における虐待防止の推進
- 精神科病院における虐待事例が後を絶たないため、管理者のリーダーシップのもと、虐待防止の取組を、組織全体で推進することが必要です。
- 精神科病院の虐待防止に向けた取組事例を、都道府県等を通じて周知し、虐待防止、早期発見、再発防止に向けた組織づくりが推進されています。あわせて、虐待が強く疑われる場合は、事前の予告期間なしに実地指導を実施できるとするなど、都道府県等の指導監督の強化を図っています。
- 精神科病院での虐待対応について、業務従事者への研修、患者への相談体制の整備等の虐待防止措置の実施を、精神科病院の管理者に義務付ける。
- 精神科病院の業務従事者による虐待を受けたと思われる患者を発見した人に、速やかに都道府県等に通報することを義務付ける。
あわせて、精神科病院の業務従事者は、都道府県等に通報したことを理由として、解雇等の不利益な取扱いを受けないことを明確化する。 - 都道府県等は、毎年度、精神科病院の業務従事者による虐待状況等を公表する。
- 国は、精神科病院の業務従事者による虐待に係る調査及び研究を行う。
難病患者等に対する医療の充実等
重症化した場合に円滑に医療費支給を受けられる仕組みの整備
≪現状と課題≫
現行の難病患者及び小児慢性特定疾病児童等に対する医療費助成の開始時期は、申請日となっています。
しかし、医療費助成の申請に際しては診断書が必要とされており、また、診断書の作成には一定の時間が必要とされるため、診断を受けてから申請にいたるまでに時間がかかります。
≪見直し内容≫
医療費助成の開始時期を、申請日ではなく、重症化の診断を受けた日とします。
難病患者等の療養生活支援の強化
≪現状と課題①≫
指定難病患者は各種障害福祉サービス等を利用できますが、そのことがあまり認知されていないため、利用を促進する必要があります。
- 福祉、就労等の各種支援を円滑に利用できるようにするため、都道府県等が患者のデータ登録時に指定難病にかかっていること等を確認し、マイナンバーと連携した「登録者証」を発行する事業を創設します。
- マイナンバーと連携した「登録者証」を活用し、ハローワークや市町村が、「難病患者が各種サービスを利用できるのに利用できていない」という状況が発生しないシステムを構築します。
- 指定難病患者及び小児慢性特定疾病児童等のニーズは多岐にわたることから、こうしたニーズに適切に対応するためには、福祉や就労支援など、地域における関係者の連携強化が重要になります。
- 小児慢性特定疾病児童等の成人期に向けた支援を促進するとともに、小児が成人後に受けることになる各種支援との連携強化が必要です。
- 難病相談支援センターの連携すべき対象として、指定医療機関に加えて、福祉関係者や就労支援関係者を明記します。難病相談支援センターを中心として、関係機関が連携して支援を行うことになります。
- 難病の協議会と同様に、小児慢性特定疾病児童等の地域協議会を法定化した上で、これらの地域協議会間の連携を努力義務化し、成年後のスムーズな支援につなげます。
- 小児慢性特定疾病児童等自立支援事業は、幼少期から慢性的な疾病にかかり、学校生活での教育や社会性の養成に遅れが見られる児童等について、地域による支援により自立の促進を図る事業です。都道府県等が実施主体となり、必須事業である相談支援事業と、任意事業が行われています。
- 都道府県等が行う小児慢性特定疾病児童等自立支援事業について、任意事業の実施率が低いことが課題となっています。
- 地域の小児慢性特定疾病児童等やその保護者の実態を把握し、課題の分析等を行い、任意事業の実施及び利用を促進する「実態把握事業」が努力義務として追加されました。
- 現行の任意事業の実施が、努力義務化されました。
各種データベース(DB)の充実化
- 障害者の状況は一定ではなく、サービス内容も、状況に合わせて修正していくことが必要になります。その際の重要な指標となり得るのが、蓄積されたサービス利用状況等のデータです。そのため、障害福祉等の分野においても、DBの法的根拠を整備する必要があります。
- 現状、他の公的DBとの連結解析を可能とするためのルールが整備されていません。
- 難病DBについては、医療費助成の申請時に提出する指定医の診断書情報が登録対象とされているため、医療費助成に至らない軽症者等に関するデータ収集が進んでいません。
- 障害者DB、障害児DB、難病患者DB及び小児慢性特定疾病児童等DBの法的根拠を新設します。
- 他の公的DBとの連結解析を可能とするルールを定めます。
- ここで収集されるデータは重要な個人情報ですので、その運用については十分な配慮が必要です。そのため、各DBについて、安全管理措置、第三者提供ルール等の諸規定を新設します。
- 難病DBについては、登録対象者を拡大し、軽症の指定難病患者もデータ登録可能とされます。
その他
地域のニーズに応じた事業者指定の仕組みの導入
≪現状と課題≫
市町村が障害福祉計画等により地域のニーズを把握し、必要なサービスの提供体制の確保を図る一方で、事業者の指定は都道府県が行うため、市町村の認識との間にズレが生じるなど、地域のニーズに応じたサービス事業者の整備に課題があるとの指摘があります。
≪見直し内容≫
都道府県の通所・訪問・障害児サービス等の事業者指定について、市町村はその障害福祉計画等との調整を図るため意見を申し出ることができること、都道府県はその意見を勘案し、指定に際し必要な条件を付すことができること、また、当該条件に反した事業者に対して勧告及び指定取消しができることとしています。
居住地特例の見直し
≪現状と課題≫
障害者支援施設等に入所する障害者は、施設所在市町村の財政負担を軽減する観点から、施設入所前の居住地の市町村が支給決定を行います(居住地特例)。
しかし、介護保険施設等の入所者が障害福祉サービスを利用する場合には、居住地特例の対象とはならないため、施設のある市町村が支給決定を行うことになり、施設所在市町村に財政的負担等が集中するとの指摘があります。
≪見直し内容≫
居住地特例の対象に、介護保険施設等が追加されます。
参考文献等
- 厚生労働省『障害者総合支援法等の改正について』厚生労働省 社会・援護局 障害保健福祉部 企画課
- 二本柳覚(編著)『これならわかる<スッキリ図解>障害者総合支援法』第3版