「ひきこもり」とは
定義や背景について解説

2023/11/11

ひきこもり

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2022年に実施された内閣府の調査において、15歳から64歳までのひきこもり状態にある方は、全国で146万人と推計されています。そのうち、40~64歳までの中高年者が約半数を占めています。

調査の手法上、実際にはひきこもりの状態にない人が含まれ、ひきこもりの状態にある人が除かれている可能性があるとされていますが、それでもおよそ50人に1人がひきこもり状態にあるという結果をみると、決して個人だけの問題ではなく、社会全体で対応すべき問題であると思います。

とはいえ、まずは、「ひきこもり」について知ることが大切です。
そこで、この記事では、「ひきこもり」に関する基本的な情報を紹介したいと思います。

ひきこもりの定義

厚生労働省のガイドラインでは、「ひきこもり」とは、仕事や学校に行かず、かつ家族以外の人との交流をほとんどせずに、6か月以上続けて自宅にひきこもっている状態であり、時々買い物などで外出する場合も「ひきこもり」に含まれるとされています。
つまり、長期にわたって自宅で過ごすことが中心で、就労や就学などの社会参加から遠ざかっている状態を指します。

具体的なひきこもりの状態は人それぞれで、部屋から全く出られず、家族との関わりが失われている人もいれば、コンビニでの買い物や散歩など、他者と交わらない形での外出はできる人もいます。

≪ひきこもり状態の例≫
  • 学校を卒業したり中退したりした後、仕事につかずずっと家にいる
  • ある日突然仕事をやめてしまい、人間関係を一切たっている
  • 自分の部屋に閉じこもっていて、家族とも話をしようとしない
  • 昼夜逆転の生活をしていて、夜中になるとコンビニなどに出かける 等

ひきこもりの特徴

本人の様子

①不安
ひきこもっていることで自分の将来に不安を感じ、自分を責めてしまいがちです。
無気力でやる気が起きず、時にはイライラすることもあります。

②家族との関係
家族が自分をどう思っているかを気にしていることが多いです。
家族に命令するような話し方をしたり、暴力をふるったりすることがあります。

③昼夜逆転の生活
家族と顔を合わせることが辛くなったり、日中に他人と顔を合わせないように夜に外出したりすることで、昼と夜が逆転してしまうことがあります。

④精神疾患の可能性
精神疾患がひきこもりの原因となっている場合があります。また、ひきこもりの状態が続くことにより精神疾患を発症する場合もあります。

⑤社会経験
ひきこもりの長期化により、年齢相応の社会経験の機会を失うことになり、また、ひきこもり期間があること自体が就労時の障害になりやすいなど、社会参加を妨げる要因となります。

家族の様子

①家族も不安
家族も、ひきこもる本人の現状と将来に大きな不安を抱えています。ストレスから精神的な不調をきたす方も少なくありません。
また、本人の問題行動(暴力行為など)により、家族が危険にさらされることがあります。

②家族の孤立
家族は世間の目を気にして、ひきこもり状態であることを隠し、家族だけで抱え込み、孤立してしまうことがあります。

③家族関係
家族も対応の仕方がわからず、心配のあまり過保護・過干渉になることがあります。こうした家族関係の悪化が、さらにひきこもりの長期化を招くことがあります。

ニートとの違い

NEET(ニート)とは、「Not in Employment, Education or Training」の頭文字をとった造語であり、学生でも就業者でもなく、求職活動もしておらず、主婦(主夫)でもない、15歳から34歳の者を指します。

このように、「ニート」と「ひきこもり」は異なる概念ですが、問題が重複する部分があるといわれています。

ひきこもりと精神疾患

ひきこもりと関連の深い精神疾患の主なものとしては、広汎性発達障害、強迫性障害、統合失調症、うつ病などがあります。

①広汎性発達障害
主な症状として、コミュニケーションの障害、対人関係・社会性の障害、興味・関心の偏り、こだわりなどがあります。
社会生活における人間関係のストレスから、ひきこもりに至る場合があります。

②強迫性障害
自分でつまらないことだとわかっていても、そのことが頭から離れない、何度も同じ確認を繰り返してしまうなどの症状があります。

③統合失調症
幻覚や妄想などの症状が特徴的です。およそ100人に1人がかかると言われています。

④うつ病
気分が落ち込み、その状態が長く続く病気です。それまで興味を持っていたことにも関心がなくなる、考えがまとまらないなどの症状が生じます。不眠や食欲不振などの身体症状が現れる場合もあります。

ひきこもりの背景

ひきこもりの要因や背景は、人によって様々です。

特に40歳以上では、リストラなど「退職したこと」をきっかけにひきこもり状態になる人が多くいます。

近年、働き方改革などが実施されていますが、職場環境が十分に改善されているとはいえず、一度レールから外れてしまうと、元に戻ることが難しい雇用環境にあります。さらに、パワハラ等がトラウマになり、そのままひきこもってしまう人もいます。

2000年頃までは、「ひきこもり」は若者特有の問題として捉えられていました。そのため、ひきこもり支援においても「39歳以下の若者就労支援」が重視されており、年齢の上限が設けられた上、「就労」がゴールに設定されていました。

しかし、前述のように、ひきこもり状態になる年齢は様々であり、また、つらい思いをした職場から安全な居場所(自宅)に避難している人たちにとって、「就労」をゴールとする支援は馴染みませんでした。

最近では、ようやく国や自治体の認識も変わってきており、中高年のひきこもり支援にも注力するようになってきました。しかし、その間の対応は遅れていたといわざるを得ず、40歳以上のひきこもり当事者とその家族の多くが、制度の狭間に取り残される形で孤立を深めていきました。

8050問題

80代の親が、収入のない50代の子の生活を年金収入などでまかないながら、地域社会とかかわりを持たずに孤立していく世帯の困難を、「8050問題」といいます。他にも、「7040問題」や「9060問題」を抱える世帯もあります。

そして、今は親の年金などで生活ができていても、将来的には行き詰まることが予想される、あるいはすでに行き詰っているという問題が顕在化してきています。

こうした家庭では、親の多くがひきこもる子の存在を恥ずかしく思い、隠すことで、外部への相談につながりにくくなっています。また、ひきこもっている子の方も、自分が親から隠される存在であることを感じ、それが重荷になり、ますます動けなくなる状況にあります。

ひきこもる本人だけでなく、家族全体が地域から孤立してしまうことが、「8050問題」の本質といえます。

ひきこもりの捉え方の変化

上記のような様々な要因から、「ひきこもり」は、本人にとって「マイナスの体験」であると捉えられがちです。

しかし、それは、「ひきこもり」に対する周囲の否定的な見方が、「ひきこもり」を「はずかしい体験」として思い込ませている面もあると思います。

そのような周囲の「ひきこもり」に対する見方を問題視し、「ひきこもりでもやっていける」という肯定的な開き直りを通じて自分の価値を取り戻そうとする当事者活動も、近年拡がりつつあります。

参考文献等

  • 伊藤康貴『「ひきこもり当事者」の社会学 当社者研究×生きづらさ×当事者活動』
  • 齊藤万比古(研究代表者)『ひきこもりの評価・支援に関するガイドライン』厚生労働科学研究費補助金こころの健康科学研究事業
  • 仙台市『「ひきこもり」って?』仙台市ホームページ
  • 高塚雄介(編)『ひきこもりの理解と支援 孤立する個人・家族をいかにサポートするか』
  • 内閣府『こども・若者の意識と生活に関する調査(令和4年度)』
  • 山形県『ひきこもり支援ガイドブック ~誰もが安心して生活できる地域をつくるために~』山形県 子育て推進部 若者活躍・男女共同参画課,山形県 健康福祉部 障がい福祉課

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わたなべ と申します
障害福祉専門の行政書士です。
日々学んだことを、このブログでアウトプットしていきます。

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