発達障害者を支援するうえで、障害の理解や支援方法等を学ぶことはとても大切なことです。
しかし、それだけではなく、発達障害者の生活を支えるための制度やサービスについて知り、状況に応じて活用することも大切です。
そこで、この記事では、発達障害者の支援に有効と思われる制度やサービスについて紹介したいと思います。
発達障害に関する基本的な情報については ≪こちらの記事≫ をご覧ください。
執筆したのは、障害福祉専門の行政書士です。
支援ニーズの把握
「発達障害」は、脳の働きの特性が強すぎて、普段の生活に支障が出てしまう状態です。
そうした場合でも、試行錯誤を繰り返し、困難を乗り越えて生活している人もいると思います。その一方で、試行錯誤してもなかなかうまくいかないことがあるのも事実です。その場合には、自分の特性を活かせる方法を見つけることが必要になります。その際に、「発達障害」を軸としたアプローチが役立ってきます。
発達障害に関する診断は、専門の医師が、当事者や家族の状況を詳しく聞き取りながら行います。そのときに行われるのが、当事者や家族が日常生活において抱えている困難を軽減するための方法(支援ニーズ)の把握です。
支援といっても、特別な福祉施設や相談機関によるものだけではありません。例えば、マナーやルール、読み書きや計算を、その人に合った教材で、その人のペースに合わせて教える工夫も、一つの支援と言えます。言葉でのやり取りが苦手な人に、イラストを使って伝えることも効果的な方法です。
このように、「その人」に合った方法を見つけ、生活の困難を取り除いていくことが、支援の目標となります。
子どもに関する相談先
子どもに関する公的な相談機関としては、保健センター、児童相談所、家庭児童相談所、教育センターが挙げられます。
どの機関も無料で相談でき、「発達障害の傾向があるか」、「診断を受けた方がいいか」などの相談もできます。
①保健センター
設置主体は、市町村です。
対象年齢は、母親の妊娠中、0歳以降です(就学前に関わることが多い)。
健康相談、子育て相談、乳幼児健診、育児サークル等を実施しています。
②児童相談所
設置主体は、都道府県、政令指定都市です。
対象年齢は、18歳未満です。
医師が在籍しており、診断、障害者手帳交付、一時保護等を実施しています。
③家庭児童相談所
設置主体は、市町村です。
対象年齢は、18歳未満です。
子育てに関する全般的な相談を受け付け、家庭訪問をする場合もあります。診断はできませんが、児童相談所と比べて、身近で素早い相談ができるという特色があります。
④教育センター
設置主体は、市町村です。
対象年齢は、基本的に小学1年生~中学3年生ですが、地域によって異なります。
学校に関連する相談を受け付けています。
他にも、自治体によっては独自の支援を行っていることもありますので、まずはお住いの市町村の障害福祉又は子育て支援の担当部署にお問い合わせください。
医療機関の利用
病院に行くことのメリット
≪診断≫
発達の特性を評価してもらい、アドバイスを受けることができます。また、発達障害に似ていても、発達障害と違ってすぐに治療が必要な病気もありますので、それを見分けてもらう必要があります。
≪診断書≫
発達障害の診断書があると、各種の機関で様々な支援サービスが受けられます。また、障害者手帳を取得するかどうかの選択肢が出てきます。
なお、障害年金の申請にも、医師による診断書が必要になります。
≪薬による治療≫
すべての症状に効くわけではありませんが、生活上困る特性を抑えたり、抑うつ、不安、興奮等の心の混乱を和らげたりすることができます。
何科を受診すべきか
中学生までは小児科、中学校を卒業してからは精神科を受診するのが一般的です。ただし、すべての精神科医が発達障害を診断できるわけではありませんので、発達障害の診断が可能かどうかを事前に医療機関にお問い合わせください。
教育面の支援体制
通常の学級に在籍している障害児には、通常の学級の担任が、特性に配慮した指導・支援を行います。また、特別支援教育支援員が、学級担任と一緒に支援にあたることもあります。
小学校には、特別支援学級や通級指導教室が設けられていることもあり、子どもの特性に応じた指導や支援が行われます。
これらの支援は、いずれも保護者等の希望により行われるため、まずは小学校や市町村の教育委員会にご相談ください。
発達障害者支援センター
発達障害者支援センターとは、発達障害を持つ人への支援を総合的に行うことを目的とした専門機関です。
発達障害者支援センターでは、相談者の年齢は問わないため、年齢によって相談が途切れる心配がありません。
また、発達障害の診断がなくても、「疑い」の段階から相談することができます。そのため、「自分が発達障害かどうか知りたい」という当事者からの相談を聞いたり、医療機関につなぐ必要があるかどうかの判断をしたりすることもあります(診断はできません)。発達障害の診断後には、障害の詳しい説明や心理教育などもしてくれます。
発達障害を持つ人だけではなく、その家族や関係機関等からの相談も受け付けており、困難事例を抱える支援者が相談することもできます。
精神保健福祉センター
アルコールや薬物の依存症、ひきこもり問題、精神科入院の相談など、困難な問題の相談先として、「精神保健福祉センター」があります。
発達障害者は、脳の特徴からストレスを感じやすく、その結果、うつ病や依存症などの二次障害を併発しやすいといわれています。また、対人関係や感情のコントロールが苦手といった特性により、社会への適応が難しく、不登校やひきこもりになる可能性も高いとされています。
精神保健福祉センターは、そうした二次障害やひきこもり問題等に関して、専門的な知識を持つ職員が、相談や情報提供など幅広く対応しています。
障害者総合支援法等による支援制度
障害福祉サービス等
障害者総合支援法に基づく福祉サービスは、障害の種類や程度などを踏まえて個別に支給決定が行われる「障害福祉サービス」と、市町村が利用者の状況に応じて柔軟にサービスを行う「地域生活支援事業」に大別されます。
「障害福祉サービス」には、居宅介護(ホームヘルプ)、短期入所(ショートステイ)、自立訓練、就労移行支援、共同生活援助(グループホーム)など様々なサービスがあります。また、障害児を対象とした、児童発達支援や放課後等デイサービスなどの児童福祉法に基づくサービスもあります。
「地域生活支援事業」には、障害者の外出を支援する移動支援などがあります。
これらのサービスを利用するには、市町村の障害福祉担当部署に申請し、サービスの支給決定を受ける必要があります。また、原則1割の利用者負担が必要になります。
発達障害者は、知的障害者に該当しない場合でも、精神障害者として障害福祉サービスの対象となります。
各サービスの具体的な内容については ≪こちらの記事≫ をご覧ください。
自立支援医療(精神通院医療)
発達障害者が、服薬治療を受けたり、主治医に定期的に相談したりする場合、精神科に通院することになります。そして、この通院が長期化すると、医療費の負担が大きくなり、いまだ通院が必要な状態にもかかわらず、経済的な理由で通院を中断してしまうことがあるかもしれません。
そこで、「自立支援医療(精神通院医療)」を利用することにより、精神疾患の通院治療による医療費の負担を軽減することができます。
≪対象となる医療の範囲≫
精神障害及び当該精神障害に起因する病態に対して、入院しないで行われる医療が対象となります。診察料だけでなく、心理検査、薬、リハビリの料金も対象となるため、デイケアなどに通う場合にも使えます。
≪自己負担≫
原則として医療費の1割負担となります。当事者が働いていても申請できます。
≪手続方法≫
市町村の窓口に診断書等の必要書類を添えて申請し、自立支援医療受給者証の交付を受けます。
障害者手帳制度
障害者手帳は、手帳を持つ人が一定の障害にあることを公的に証明するものです。
発達障害のある人が、知的障害を伴う場合は「療育手帳」、知的障害のない場合は「精神障害者保健福祉手帳」の交付を受けることができます。身体に障害がある場合は、「身体障害者手帳」の交付を受けられます。
各障害が併存している場合には、複数の種類の手帳を取得することも可能です。
療育手帳
≪対象≫
児童相談所、知的障害者更生相談所等で知的障害と判定された人
≪申請手続≫
18歳未満の場合は児童相談所等、18歳以上の場合は知的障害者更生相談所等に申請し、判定を受けます(知能検査が必要)。
自治体によって窓口となる機関・部署が異なりますので、事前に申請先の自治体の障害福祉担当部署にお問い合わせください。
≪留意事項≫
療育手帳を取得するには、知的障害かどうかの判定が重要になります。この判定基準の1つであるIQ(知能指数)の数値は、自治体によって異なりますが、おおむね70~80の間で基準が設定されていることが多いようです。
精神障害者保健福祉手帳
≪対象≫
精神疾患を有する人のうち、精神障害のため長期にわたり日常生活又は社会生活に制約のある人
≪申請手続≫
市町村の窓口に申請書と必要書類を提出します。
≪留意事項≫
精神障害者保健福祉手帳は、精神科を受診してから6か月が経過しないと申請できません。精神疾患は病気であり、精神疾患にかかってもすぐに障害者になるわけではないという考え方のようです。
また、精神疾患は病気なので治る可能性があるとして、成人してからも2年ごとの更新が定められています。
発達障害は生まれつきの脳機能障害ですから、上記の考え方は該当しないはずですが、現状はそのようになっています。
障害者手帳を取得することのメリット・デメリット
- 「障害者」又は「障害児」であることの公的な証明になります。障害者手帳を所持していることで、身分証明となったり、周囲から適切な対応を受けやすくなったりします。
- 公共交通機関、有料道路、携帯電話などの様々な料金が減免されます。
- 子どもの場合は、保育園への入園で優先順位が高くなったり、レジャー施設やスポーツ施設で無料又は割引になったりします。
- 特別支援学校の高等部への進学の際、手帳取得が入学条件とされる学校もあります。
- 大人の場合、就労の選択肢が広がります(後述の障害者雇用等)。
- 所得税、住民税、相続税、贈与税、自動車税などが控除されます。
- 生活保護受給者の場合は、「障害者加算」がつきます。
- 子どもの場合、物理的なデメリットはありませんが、本人や家族、周囲の人が、「障害児」と認定されることをどのように感じるかといった精神的な影響を考慮する必要があります。
- 大人の場合も、「障害者」と認定されることの精神的な影響があります。
- 大人の場合、保険等について考える必要が出てきます。
手帳を取得したとしても、生命保険、医療保険、住宅ローン等は、各会社の審査によるため、絶対に加入等できないわけではありません。しかし、実際には、特に生命保険や医療保険については、手帳を取得した場合だけでなく、精神科受診の既往があることにより、審査が通らないこともあります。
各会社の審査は医療機関等にも及ぶため、受診や手帳取得を隠すことはできません。もっとも、精神科受診前や障害者手帳取得前に加入している保険や住宅ローンについては、受診後や手帳取得後もそのまま継続できます。
障害年金制度
発達障害者は、その特性や二次障害(うつ病、不安障害等)により満足に働くことができず、経済的に困窮することがあります。そのような場合に支えになるのが、「障害年金」です。
障害基礎年金(国民年金法)
- 初診日(その傷病について初めて医師の診断を受けた日)において、国民年金の被保険者であること、又は、被保険者であった者であって、日本国内に住所を有し、かつ、60歳以上65歳未満であること。
- 障害認定日(初診日から起算して1年6か月を経過した日又はその期間内で傷病が治った日)において、その傷病により障害等級1級又は2級に該当すること。
- 初診日の前日において、初診日の属する月の前々月までに被保険者期間があるときは、保険料納付済期間と保険料免除期間を合算した期間が被保険者期間の2/3以上あること。ただし、初診日が令和8年4月1日より前である場合には、初診日に65歳未満であれば、初診日の属する月の前々月までの1年間に保険料の未納がなければ、保険料納付要件を満たす。
≪事後重症による障害基礎年金≫
障害認定日において障害等級1級又は2級に該当しなかった人が、その後、その障害の程度が増進し、65歳に達する日の前日までの間に障害等級1級又は2級に該当したときは、その期間内に請求することができます。
≪20歳前に初診日がある場合≫
初診日に20歳前だった人について、障害認定日に20歳前だったときは20歳に達した日において、障害認定日が20歳以後のときは障害認定日において、障害等級(1級・2級)に該当するときは、障害基礎年金が支給されます。
障害厚生年金(厚生年金保険法)
- 初診日において厚生年金保険の被保険者であること
- 障害認定日において法令に定める障害等級1級~3級に該当すること
- 初診日の前日において、初診日の属する月の前々月までに国民年金法の被保険者期間があるときは、保険料納付済期間と保険料免除期間を合算した期間が被保険者期間の2/3以上あること。ただし、初診日が令和8年4月1日より前である場合には、初診日に65歳未満であれば、初診日の属する月の前々月までの1年間に保険料の未納がないなければ、保険料納付要件を満たす。
≪事後重症による障害厚生年金≫
障害認定日において障害等級に該当しなかった人が、その後、その障害の程度が増進し、65歳に達する日の前日までの間に障害等級に該当したときは、その期間内に請求することができます。
初診日について
障害年金において重要なのが「初診日」です。初診日は、知的障害をともなう発達障害の場合は「生まれた日」であり、知的障害を伴わない発達障害の場合は、発達障害に関して「初めて医療機関を受診した日」です。
発達障害の場合、「初めて医療機関を受診した日」は精神科が多いと思いますが、小児科や心療内科の場合もあります。
就労に関する制度
概要
発達障害があることで、人間関係や仕事でうまく立ち回れず、企業で働くことに困難を感じる人も多くいます。発達障害者は得意・不得意の差が大きいことを理解し、その人に合った就職先を見つけることが重要になります。
発達障害の診断や障害者手帳を取得していても、健常者と同じく、「一般雇用」で就職する人もいます。その中で、自分の発達障害を職場内で打ち明けることを「オープンでの就労」といい、打ち明けずに健常者と同じように働くことを「クローズでの就労」といいます。
障害者雇用促進法により、障害を理由に解雇することや障害に対して合理的配慮をしないことは違法になりますが、実際には、障害をオープンにしたことで、希望しない異動を命じられたり、退職に追い込まれたりする人もいます。
一般雇用での就労を継続したい場合に、発達障害をオープンにするかどうかは、職場の状況を見極め、誰にどのように打ち明けるかをよく考えて進めることが望ましいでしょう。
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メリット
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デメリット
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一般雇用 クローズ
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一般雇用
オープン |
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障害者
雇用
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障害者雇用
障害者雇用は、障害者雇用促進法に基づく雇用方法です。
障害者雇用促進法は、事業主に対して、「障害者雇用率(法定雇用率)」に相当する人数の障害者雇用を義務付けています。
障害者雇用で就職した場合、一緒に働く従業員のほとんどは健常者となります。そのため、発達障害に詳しい人が仕事を教えてくれるとは限りません。自分の特性や配慮して欲しい事項について、随時、周囲に伝えていくことが必要になります。
障害者雇用の中でも、「特例子会社」に就職する方法もあります。
特例子会社とは、一定の要件を満たし、厚生労働大臣の認可を受けることで、障害者雇用率の算定において親会社の一事業所とみなされる子会社のことです。
特例子会社では、周囲の同僚も障害者であることが多く、就業規則等も障害者に沿った内容である可能性が高いため、障害のある人にとって働きやすい環境が整っている場合があります。
なお、障害者雇用を希望する場合、事前に障害者手帳を取得する必要があります。障害者雇用の求人に応募できるのも、障害者手帳が交付された後になります。
就労継続支援A型事業
就労継続支援A型事業は、障害福祉サービスの一つですが、一般雇用や障害者雇用と同様に、当事者が事業者と雇用契約を締結したうえで就労します。雇用契約を締結するので労働関係法令が適用され、報酬にも最低賃金が適用されます。
障害者雇用との大きな違いは、支援者が業務の指示を出す点です。そのため、トラブルが発生した場合や困りごとがある場合などに、すぐに支援者が対応できます。
デメリットとしては、一般企業と比べて職場選択の幅が狭くなる点が挙げられます。
就労継続支援B型事業
就労継続支援B型事業は、障害福祉サービスの一つであり、生産活動等の機会の提供や、就労に必要な訓練などを行います。
就労継続支援B型事業は、A型事業とは異なり、事業者と雇用契約を締結しないため、最低賃金の適用はありません。そのため、例えば月に20日通所したとしても、2万円程度の工賃が支払われる事業所が多いです(工賃の額は事業所によってばらつきがあります)。
雰囲気や仕事への取り組み方は事業所によって異なりますが、基本的には、A型事業所と比べて、その人のペースで働けることが多いです。
就労移行支援事業
就労移行支援は、一般雇用や障害者雇用を目指しているものの、就労のためのスキルやマナーが十分には身についていない障害者が、就労するための訓練等をするときに利用できる障害福祉サービスです。
利用期限が2年に限られているため、2年以内に就労できる状態にあることが利用のポイントになります。
自立訓練(生活訓練)事業
自立訓練(生活訓練)は、生活能力の維持・向上のために支援が必要な障害者が利用できる障害福祉サービスです。
本来は、入所施設や入院していた人が地域生活に移行するときに使う制度ですが、実家暮らしから一人暮らしに移行するための準備として利用したり、ひきこもり生活をしていた人が生活習慣を整えるために利用したりすることもできます。
サービスの内容としては、家事の練習、公共交通機関の乗り方、飲食店での注文の仕方、銀行ATMの操作方法などを練習することができます。
自立訓練(生活訓練)事業で生活スキルを高め、その後、就労継続支援や就労移行支援事業などの利用に進むことが考えられます。
障害者就業・生活支援センター
障害者の就職支援の中心となるのが、「障害者就業・生活支援センター」です。相談は無料で、障害者手帳がなくても相談できます。
障害者就業・生活支援センターは、障害者の就職に関する相談がメインの機関であり、就職のあっせんや職業訓練などの具体的な支援はできませんが、障害者の就職に関する様々な機関とのネットワークを持っています。
成年後見制度
成年後見制度とは、認知症、知的障害、精神障害等により物事を判断する能力が不十分な人について、本人の権利を守る後見人を選ぶことで、本人の意思を尊重しつつ本人を法律的に保護・支援する制度です。
家庭裁判所が判断能力の不十分な人の後見人を選任する「法定後見」と、本人が将来の判断能力低下に備えてあらかじめ後見人を選んで契約しておく「任意後見」があります。
参考文献等
- 秋田県『(改訂版)秋田県発達障害支援ハンドブック』秋田県 健康福祉部 障害福祉課
- 東京都『発達障害者支援ハンドブック2020』東京都 福祉保健局 障害者施策推進部 精神保健医療課
- 浜内彩乃『発達障害に関わる人が知っておきたいサービスの基本と利用の仕方』
- 古荘純一『発達障害サポート入門 幼児から社会人まで』